ごーごごー、ごーちゃんでGo!

前職のトラウマを引きずりながらも畑違いの結婚式場の華やかな舞台を演出するため、古傷の腰痛を抱えた30台後半の主人公仲瀬は、昔の取引先の知人から職人への復職を持ちかけられる。
紹介してもらい入った会社は典型的な家族経営で父親が社長、常務に母親、そして専務は一人息子でマザコン、世間知らずで対人恐怖症、某障害の症状がすべて当てはまるようなその息子の名は豪。
豪に全てを振り回され、廃業まで追いやられた社員の信じられない日々を書き連ねたノンフィクション物語。
繰り返します。これはノンフィクションです。

2017年9月のブログ記事

  • 高山テキスタイル株式会社編 -アポイント(前編)-

    「あ、もしもし仲瀬と申します。豪さんは居られますでしょうか?」  平成二十年二月某日前夜、関西地区は大雪に見舞われ、荘厳なチャペル・コンフィードと大階段を備えた結婚式場ル・ソイルも一面を銀世界に変えていた。この時期は結婚式は少なく、会場費が安く設定されるため発表会だの懇親会だのの予約が多く入る。煌... 続きをみる

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  • -退職(後編)-

     社長室のドアをノックし、唸ったような小さな返事を確認してから中に入った。 「おはようございます」  篤朗の挨拶の声に、想定外の人物が入ってきた事に顔を強張らせた高山だが、瞬時に平常に戻し机上の書類への書き込みを続けて始めた。篤朗は告発状と書いた封筒を高山の視線から少し外した位置に置くと 「ここへ... 続きをみる

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  • 高山テキスタイル製作所 -退職(前編)-

     いつか辞めるだろう、またはクビになるかもしれない、その時のためにと各署の所在地は事前に覚えておいた。それが突如、今日、今から一時間も経っていない状況で篤郎は車を走らせていた。先ほどまでの動悸はようやく治まり、悔し涙の痕が目元の肌を引っ張っていた。  自分から辞めたのなら納得も行く、しかし前職同様... 続きをみる

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  • -告発(後編)-

    昼食室は工場入り口のすぐ横にあり、篤朗が景造を連れて入ると高山が先に折りたたみ椅子に座り、面接時と同じように対面に座れと促した。全員が席に着くと、高山が開口一番、 「あっちゃん、あんまり社内をかき回すなよ、みんな困っとるど」  先ほどの怒気を隠すかのように高山は昏く笑って余裕を見せつける。 「みん... 続きをみる

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  • 高山テキスタイル製作所 -告発(前編)-

     一夜明けて、篤朗はいつもと同じように出勤して挨拶して回るが皆がよそよそしい。朝の仕事内容の確認に事務所に顔を出すと、いつもは明るく挨拶する悦子までが避けたような態度を示した。 「斎藤さん、おはようございます!」 「あ、あっちゃん、おはようさん」 「なんかあったんですか? みんな暗くないですか?」... 続きをみる

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  • -就業(後編)-

     社内では篤郎が入社する前からトレース職人と現場職人との間に埋まる事のない深い溝があり、それは業界の急成長時代の経営者が時代についてこれてないのが主な原因である。  染工業界が好景気の時代、仕事の受注は黙っていても飛び込んでくる程で、断っても納期はいいからとりあえず受けてくれ、と常に図案が手付かず... 続きをみる

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  • 高山テキスタイル製作所 -就業(前編)-

     篤郎が高山テキスタイル製作所に勤めて五年目の夏、思い描いていた未来は訪れることなく、日々ストレスと気怠さが鬱積するばかりで、トラック運送の運転にも影響が表れていた。  亀岡市から取引先の大阪の泉佐野にある豊橋染工場までの道のりに高速道路を利用するが、関西で最も事故の多発な阪神高速の往復路途中で重... 続きをみる

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  • -採用(後編)-

    「全部覚えてもらおうとは思とらんで。」  高山は篤朗の不安を察し、先手を打つ。 「あっちゃんには山内君と交代で週二回トラックで配達に行ってもらいたいんと、納品先で修繕とかもあるさかい穴埋めとかテッポウ(樹脂を塗った型に小さなピンホールと呼ばれる穴や、余分に付いた樹脂を削るため生地の染み抜きに使う圧... 続きをみる

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  • 高山テキスタイル製作所 -採用(前編)-

     三十二歳という年齢は就職活動をするに当たって微妙な年齢で、多くの企業の年齢条件が三十五歳までと区切られている。さらにコンピュータ系専門学校卒の篤朗は特に何のスキルも無く、十年勤務で培ったのは接客応対と商品知識の記憶術、本社が舞鶴市内にあることからか舞鶴弁を地元民でも間違うほどにマスターした事だけ... 続きをみる

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  • -面接-(後編)

    「あんたそんなちいさい子抱えてんのにいつまでもアルバイトでは、父親としてもっとしっかりせんといかんぞ」 「はぁ、そうですね」 「他行くとこまだ見つからんのやったら、どや、ウチで働かんか?」 「え? それは正社員としてですか?」 「当たり前や! あんたがうち来てやってくれるっちゅうのやったら待遇面も... 続きをみる

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  • 高山テキスタイル製作所 -面接(前編)-

     一年前の五月、勤めていた地元の北倉石油株会社の整備工場で暴力事件を起こし、しかし事件の経緯に落ち度はあれ情状酌量の余地は在りと会社側は最大限の考慮を図っての自主退社扱い、満額退職金という条件で篤朗は十年務めた会社を退社した。  二児の幼児と三十年の住宅ローンを抱えて今年で三十二歳、定年まで勤める... 続きをみる

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  • プロローグ

     ゴシック様式で造られた白亜の大聖堂チャペル・コンフィードで幾組の新郎新婦を見送って来ただろう。  水曜日の正午きっかりに会社からの仕出し弁当を食べおわった仲瀬篤朗は、一人勝手口横の駐車場からその白い虚像を見るとも無く眺めていた。  前職から畑違いのサービス業に転職して四ヶ月。仲瀬はさらに前の職場... 続きをみる

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