ごーごごー、ごーちゃんでGo!

前職のトラウマを引きずりながらも畑違いの結婚式場の華やかな舞台を演出するため、古傷の腰痛を抱えた30台後半の主人公仲瀬は、昔の取引先の知人から職人への復職を持ちかけられる。
紹介してもらい入った会社は典型的な家族経営で父親が社長、常務に母親、そして専務は一人息子でマザコン、世間知らずで対人恐怖症、某障害の症状がすべて当てはまるようなその息子の名は豪。
豪に全てを振り回され、廃業まで追いやられた社員の信じられない日々を書き連ねたノンフィクション物語。
繰り返します。これはノンフィクションです。

-ヘッドハンティング(後編)-

 翌日、昼出勤の篤朗が結婚式場ル・ソイルに出勤すると、事務所で吉峰がやはり胡乱気ながらわずかに渋面を示し手待ち構えていた。
「仲瀬ぇー、お前俺を殺す気かぁー。昨日の宴席で延々と西原さんから嫌味言われたんやぞ」
「白まで切らさせてすみませんでした。あの後揉めませんでしたか?」
 ミーティングの前日に、辞意をつたえる旨は吉峰には伝えており、それを知ってるとなると留まらせなかった監督責任を伴うため知らない事にしたわけだが、結果酒が絡んでより強く管を巻かれる事となった。
「まーあんな言い方する西原さんも大人気なかったと言えばそれまでだけど、それだけ仲瀬くんを買っていたんでもあると思うよ」
「ですね」
「実を言うと俺もここ辞めるんだわ、まだ西原さんには言ってないけど。あなたが先に言ってくれたおかげで当分口に出せそうにないけどね。それはそうと、いつ辞めるつもりしてるん?」
「三ヶ月は続ける予定でしたけど、ああ出られるともう在籍意義がなくなりましたので早々に辞めるつもりです」
「西原さん、半年は辞めさせんって豪語してたよ。前に辞職願だして辞めた子も半年は残ってたわ」
「大丈夫です。労働法で自分の意思を示した場合、最短二週間で辞めれるよう定められているんです。まぁそこまで強行に出るつもりはありませんので、ここが落ち着く一ヶ月ほどで考えてます」
「仲瀬くん怒らせたら怖いなぁ」
 仲瀬の一回り以上も人生を歩んだ吉峰にとっては、ほんの小さな子供の戯言とばかりに笑ってその場を和ませると、週末に控えた結婚式披露宴会場の用意にと動き始めた。
 民法第六二七条に「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入をすることができる。この場合、雇用は、解約申入の後、2週間を経過して終了する」と謳われており、事業主がこれを執拗に拘束する事が出来ない。
 篤朗は高山の会社で揉めた際、労働法についてもいろいろと調べており、以前に半年間の拘束後に辞めた社員の嘆きも聞いていたこともあり、切り札を用意していたのだ。
 その後、篤朗の話に耳も傾けず時間も取らない西原に、篤朗は内容証明の郵便を本社宛に投函した。
 内容証明は郵送先で受け取った証明が差出人に届くため、内容証明で送った退職届を受けとった時点で民法第六二七条の効力が発動するのである。
 恩を仇で返す篤朗と、仇に対して恥辱を与えた西原は、双方に遺恨を残す結果となった。